第10回:バレエ栄養学2 ダンサーとダイエット
こんにちは。
バレエ栄養学の講師、村田裕子です。
「食べることの大切さ、楽しさ、美味しさを伝えながら、バレエダンサーが食べ物の力を自分の力として生かせる身体と心を作るお手伝いをする」
それが私の仕事です。
栄養学の長期間のカリキュラムの中では、バレエダンサーが知っておくべき栄養素や食品の基礎知識、食べたものが体内で分解利用される過程や身体の仕組み、食べ物から得たエネルギーが体内でどのように使われているのかを学ぶ代謝のメカニズムの講義、バレエのための献立を考える調理実習、ダンサーひとりひとりの身体、心、目的にあわせた個人指導など、系統立てた栄養サポートを行います。
バレエ栄養学の知識やスキルを正しく理解して、自分のライフスタイルにあった食生活にアレンジし、活用できるようになることを目指します。
一般の人とは比べものにならないほどの身体能力を求められるバレエダンサー。
だからこそ、毎日口にする一食一食を大切にして欲しいと思います。
また、食事は楽しいものです。栄養素だけを追いかけたり、無理をして食事を我慢することは逆効果。ストレスのない、楽しい食事の風景になることを心がけることも大切です。
そして、「美味しい」という文字には、「口から末まで美しく」という意味が込められています。美味しさとは身体全体で美しく味わう感性です。
美味しいという感動を身体の内側から感じて欲しいと願っています。
しかしながら、バレエダンサーには女子が多く、美しくスリムな体型が求められるせいもあり、食べることの大切さ、楽しさ、美味しさが二の次になり、ウェイトコントロール、いわゆるダイエットに走りがちです。
特に思春期の女子は、大人になりつつある体型に戸惑ったり、嫌悪感を覚えたりすることも。スマートフォンのダイエットアプリを利用したり、巷にあふれる健康情報から都合のよいところだけをつまみ食いした自己流ダイエットに陥る人も少なくありません。
バレエダンサーは、小さい頃から指導者に「やせなさい!」と教育されているせいか、食べるという行為に罪悪感があるという女子が多い傾向にあります。ごはんやパンは太るからまったく食べない、主食をゆで卵やおから、キャベツやりんごなどに置き換えたり、発表会前の一ヶ月間は野菜ジュースしか口にしなかった、など極端なケースも珍しいことではありません。これではバレエのレッスンどころか、寝たきりの安静時に必要な最低のエネルギーしか摂取できていません。
こういった食生活で特に問題なのが、生きるためのエネルギー源となる糖質の不足です。ごはんやパンなどの糖質が不足すると、血糖値が不安定になるため、レッスンに集中できない、レッスン中に頭がふらふらするという自覚症状が起こるはずです。そういった症状が起こると、身体がいちばん求めるのが糖質です。糖質の中でも吸収の高い「甘いもの」を食べたいという欲求が異常に高まり、たいがいの場合は「甘いもの」をドカ食いしてしまうという反動が起きます。これは食事からだけでは糖質が足りないので、不足分を甘いもので補充しようとする自然の欲求であり、本能が身体を守るために起こす現象といえます。
「甘いもの」を食べると、食事で不足した糖質は補填できるかもしれませんが、たんぱく質やビタミン、ミネラルは不足したままです。栄養素のバランスがとれていないと、体重は短期間で減ったとしても、リバウンドしやすい身体になってしまいます。また、鉄欠乏性貧血、無月経、摂食障害もダイエットが大きく関与します。疲労骨折、筋膜炎、骨髄炎といったけがや故障も起こりやすくなります。この負のスパイラルに陥ってしまうと、精神的にも追い込まれて、バレエ生命をも失ってしまうかもしれません。
本来、ダイエットとは体重や体脂肪が標準より多いときに行うもので、綿密な、かつ専門的なサポートのもとに行うべきものです。身近に適切なアドバイスをくれる専門家が身近にいないときは、スポーツ栄養学の本を参考にして、栄養や食に関する知識をきちんと身につけてください。絶対に流行のダイエットに引きずられてはなりません。
そして、バレエとダイエットの優先順位を間違えないように。特に成長期のバレエダンサーにおいては、身長、体重も増え、大人の身体へと変遷し、成長する時期でもあります。保護者や指導者の方には、それに逆行するようなダイエットにはシビアにとらえて、慎重に見守っていただくことを願います。
(文・村田裕子)